「妙なことに安達の首は見つからなかったそうだ」
小笠原が憂鬱な顔で言った。他の奇士の四人は鍋でぐつぐつ煮えている肉の方に関心を寄せている。
「家来たちも見ていた。確かに首は地面に転がったと。だがあのあと、どこを探しても見つからなかったのだ」
小笠原は気のなさそうな顔で肉をつついている往壓を見た。
「竜導、お主なにか知っているのではないのか?」
「俺が? なにを?」
「だから、首の行方だ」
「俺も確かにあの場にいて首が転がったのを見ましたがね、そのあと侍たちがばたばた走り回って、その間に首がどこへいったかなんて見てねえよ」
それでもまだ疑い深く往壓を見ている小笠原に、元閥が声をかけた。
「そういえば、例の首なし子の話に続きができたらしいですよ」
「どんな?」
宰蔵がお話をねだる子供の顔をあげる。それに元閥はにこりとして話しだした。
夜道を歩いているとパタパタと軽い足音がする。子供の足音だ。
振り向くとそこにはぼろを着た子供が立っている。
やせた小さな子供の姿。
だがその顔のあるべき場所にのっているのは、年老いた老人の首だ。
子供は両手で首を持ち上げると楽しそうにその首でまりつきをする。
首が地面に当たるたびに、首からはしわがれた悲鳴が聞こえる。
そう、その首は生きているのだ。
子供の小さな手で突かれるたび、鼻はひしゃげ血を吹き、歯は折れ、舌は引き裂かれ、目からは血の涙を流す。
そしてすすり泣きながら懇願する。
「たすけてくれ、たすけてくれ。ごしょうだからじょうぶつさせてくれ」
子供は首を突きながら去っていく。
あとには老人の悲鳴ばかり。
老人が望んだように、もうこれ以上老いることもなければ正気を失うこともないだろう。
長い夜の中を苦痛のうちに、あやかしとともに生き続けるのだ。
「それは………むごい話だな」
アビが眉をしかめた。
「首なし子はぴったりの首をみつけた。めでたい話だ」
そう言い切る往壓の顔を見て、元閥はぞくりと背を震わせた。
往壓の顔に一瞬、ひどく残酷な笑みが上ったからだ。
この男は、誰よりも人らしく生きながら、誰よりもあやかしに近いのかもしれない。
「首なし子の話はこれからも生きつづけるのだろうか?」
宰蔵がぽつりと呟いた。
「哀れな老人の首と一緒にずっと」
「誰かが覚えている限りはそうかもな」
「どっちもかわいそうに思える」
「江戸の人間は飽きっぽいから」
往壓はそんな少女にどこか優しく言った。
「きっとそのうち――消えてしまうさ」
そのときあやかしは?
あやかしはどこへ行くのだろう。
暗い道を、老人の悲鳴を道ずれに、楽し気にまりをつきながら去っていく子供の姿を、奇士の五人は思い浮かべていた。